
自宅兼工房の玄関からは、「トトロの森」と呼ぶ素盞鳴神社がみえる。時代劇の撮影にも使われるという、なつかしき風景には心が癒される心地がする


庭には自然の花や葉があふれている、いろいろな花を譲ってもらったりして自然のままに繁茂している。ちょうどヒオウギが咲いていた。吾亦紅は私たちを歓迎しているように花生にさされていた。育てるのが難しいといわれる大山蓮華も知り合いから委ねられて挑戦している


友禅をするために建てられた自宅兼工房は入った瞬間に木の香りが豊かで、色彩を見るために自然光をたっぷり取り入れるように設計されている。反物の高さを替えて友禅の工程を進めること出来るように設計された2階の工房、下描きも糸目、彩色もこの部屋で行う


工房には亡父加藤重穂の友禅の額と「伝統はつねに現在する」という言葉、師である山科春宣の嵐山の絵が飾ってある。戒めでもあり励ましでもあるのだろう

切畑先生手書きの公開講座のテキスト
講義の内容は工業、友禅技法、歴史、古典文学、現代美術、思想史と多岐にわたり、今も見返すたびに発見がある
湯本先生「切畑先生のはなしはほんとうに面白いの、大好きなといったら失礼だけどほんとに大好きな先生です。」



「じっと辛抱してるのは苦手で飽きっぽいので、一枚のスケッチは1時間足らずで描きます。同じ花でも何枚も何枚も描いていますね。 椿はやっぱり藪が好きですね。 同じ植物でも何年にもわたって描きます。」こうした膨大な蓄積が湯本ヱリ子ワールドを創る基礎になっている。
15年ほど前に切畑健先生(京都国立博物館名誉館員 染織に関する著書多数)が「きもの・芸術を着る」と題して仏教大学の公開講座を持たれた。たまたま近くに座っていらっしゃったのが湯本ヱリ子先生で、京友禅の作家の方も切畑先生の講義を聞きに来られるのかと驚いた。
その後、作品を分けて頂いたり、図柄を考案して訪問着を作って頂いたりと作品を取り扱っていく中で、ますますその魅力に引き込まれるようになった。湯本作品が生み出される秘密(?)を求めて、工房を訪ねてみることにした。
京都府亀岡市、丹波国は明智光秀が築城した城跡が数多く残る京都を守る重要な地域であって、現代は山地に囲まれた豊かな稲田がひろがる美しい城下町だ。湯本さんは阪神淡路大震災の少し後、30年ほど前に、そんな町中からほど近い一角に工房を構えた
「ネオンも看板も、ない。ごみも落ちてない。地球規模の自然の大きさ、空の広さ、川も音も、空気もほんとうに美しい。それを見て何をして生きていこうか考えたら、案外父の作品をみてやってみようと思ったのね。」
20代の頃、会社勤めを辞して出たシベリアからシルクロードへの旅で、自然の雄大さに圧倒されて友禅という世界に進んだ。大都会の真ん中で育ち、絵を描くのが大好きだったこと、名古屋友禅の作家であった加藤重穂を父にもったこともきっかけだった。
京都での山科春宣の工房での修業時代には自然をスケッチすることの大切さ、主題を生かすために間の取り方を徹底的に指導していただいたと話している。修業時代には染の原案(図案)をもっていくと、山科先生は「この枝はいらんやろ」とその場で指摘をされて、だんだん描けるようになって、それからはとにかくたくさんの仕事をさせてもらったと話される。
独立してからは周りからの勧めもあって日本伝統工芸展に出品するようになった。染織の先輩方に指導を求める若手の勉強会では、辛辣な評価や指摘、どんな厳しい言葉を受けても、作品を出し続けたそうだ。
近年は毎年のように高い評価を得る湯本さん、これからそうした工芸の道を目指す若い世代の方に「こんちくしょう!!」と、悔しい思いをすることや落ち込むことがあっても自分のためと捉えてそうした厳しい目にさらされることを恐れないで挑戦し続けてほしいと話す。きっとご自身もそうした気骨を持って挑み続けて得たものがいかに大切かを知っているからだろう
湯本作品を特徴づけるユニークな紋様のモチーフ、そのデザインの基本は描き続けたスケッチブックにあった。膨大な絵の蓄積、そこから次にきものに描くカタチを選ぶ。
「自然は種からでしょ。種っていうのは要するに中心でそこから派生してくる。そうして空間を埋めていくのはテクニック、芯があるからばらばらにならないでまとまる。」
師の元で徹底的に鍛え上げられた友禅の技術があって、絶えず批判されることを厭わず、学び続ける。自然をそのまま見つめる繊細で優雅な目。そういう土台があって現代の私たちの心に届くきものが生み出される。
少し大げさな言い方だが湯本さんは、そんな身の周りの自然を手描き友禅という技で芸術にかえて、身に纏うキモノというキャンパスに描き続けている。
膨大なスケッチから生み出される湯本さんの紋様、どこまでもモダンでクラシックなそれはいつまで見ていても見飽きることのない魅力を放っている。 次に生み出される文様、そしてきものは積み重ねてきたスケッチブックのどのページからなのだろうか。
