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結城紬の原料となる袋真綿。ほおずりしたくなるほど柔らかい。この中に埋もれたい。 |
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真綿づくり、繭の保存にもさまざまな工夫をこらしておられる関根さん。 |
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熱風による乾燥を施していない繭。筆者の写真技術ではとらえきれていないが、明らかに普通の繭とは艶が違う。 |
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繭の中のさなぎをいわば仮死状態にしておく。 |
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魔法のような手つきで繭を開き、真綿を重ねていく佐藤さん。 |
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佐藤さんのつやつやの手! |
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保原はかつて一面の桑畑であった。住宅や果樹園が増え経済効率の低い養蚕はしだいにより山間部に移っていく。 |
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そんな結城紬の魅力を探るため、まず、結城紬の素材である「袋真綿」(ふくろまわた)を作っている福島県伊達市の保原という地をたずねた。「真綿」(まわた)というのは絹糸の原料である繭を開いて5つ程を重ねたものを呼ぶ。
結城紬を実際に製品として生み出しているのはもちろん、前述の栃木県と茨城県にまたがる結城地方である。その前工程の原料を作っているのがこの保原なのだ。
糸に無理をさせない。自然であるということ
通常、採取された繭は熱風で乾燥させて、繭の表面も、中のさなぎも、からからに乾燥させて殺すことで、保存に適した状態にするものです。
しかし、「熱風で乾燥」という工程は、約3デニールといわれる、蚕が吐く一本一本の細い糸から水分を奪い、絹繊維のしなやかさ、艶を失わせてしまっているのではないか?と考え、この「乾燥させて保存」という作業をせずに保存する方法にチャレンジなさっておられる関根さんにお話を伺った。
関根さんは乾絹させずに繭を保存する方法として、低温で保存する方法を試行されておられる。これは、温度が低すぎると熱風以上に乾燥が進む、高すぎるとさなぎが活動して繭を破ってしまう。そこで、何度も何度も温度、時間を試行錯誤して、繭が持っている水分を保ちつつさなぎが成長しないようにする最適解を見つけられた。
この方法であれば、繭を痛めつけるのではなく、無理をさせないことで、そこから取られる糸はしっとりとした艶、水分を保ち続けることができる。
袋真綿の早業
さて、こうして集められた繭を、次の工程では袋真綿(ふくろまわた)にする。この袋真綿(ふくろまわた)から糸を引いて結城紬の原料の糸にするわけだ。
これは主に農閑期の女性の仕事。たらいの中のお湯に浸した繭を、すべて手だけで開いて蚕のさなぎを取り出し、5、6個の繭を引き延ばして1枚の袋状の真綿をつくる。これを(25センチ×15センチくらい)の大きさに整え50枚を合わせて一秤と呼ぶ。
大きさの揃った、均質な真綿からでないと優れた結城紬の糸が引き出せない。この真綿の善し悪しが、織り上がった布の質を決める大切な要素である事は云うまでもない。
筆者もぜひにとお願いして体験させてもらった。(簡単そうに見えたので、、、)ところが、まず繭から開くところが皆目わからない、その場所を教えてもらって、うまく指を入れた、と思っても均一に開く事ができない、こんな真綿だと、糸は切れやすく、どんな糸とりの名人でもよい糸はとれない。
その横でこの道、んー十年の佐藤さんはまるで魔法のように、次から次へと仕上げていかれる。説明をして、お話をされているのに手は全く止まらない。「佐藤さんの袋真綿は糸とりがし易い!」といわれる所以である。
簡単そうにみえる作業(といっては失礼だが)こそが実は難しく、こうした技が積み重なって、美しい結城紬を作り上げているということが身を持って感じた。
(余談ですが、佐藤さんの指のつやつやしてきれいなこと!どうやら繭の成分が素肌にとってもよいそうです。)
この福島県保原の地で、絹=真綿が本来もっている、しなやかさや高い保温性、キラキラと美しく輝く艶を大切にした手作業と、より素晴らしい素材を求めてやまない人々の工夫を見ることができた。
糸を生み出し、染め、織るという、まさに物が出来上がっていく場、実はそれ以前になされる、ひとつひとつの工程が結城紬の輝きにつながっている。
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