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Vol.18 「表具師」の北村さん Vol.17 指宿紬 ~上原達也さんの仕事~
Vol.16 飯田紬を訪ねて~廣瀬染織工房~ Vol.15 きものを大切に守る仕事 ~シミ抜き・洗張りの職人~
Vol.14 『型染め』その2 Vol.13 ひとを育てる ~電気屋さんと幸之助さん~
Vol.12 受け継がれてゆく能登上布 Vol.11 畳のはなし
Vol.10 木版染めの技師と悉皆屋 Vol.9 土佐手縞 福永世紀子さんの織物
Vol.8 結城紬の糸の源 Vol.7 勝山さんの帯
Vol.6 上原美智子さんの織物 Vol.5 西陣のこと
Vol.4 「型染め」の魅力 Vol.3 現代の染織と魚座のこと
Vol.2 赤の帯 染織家Aさんの帯 Vol.1 築城則子さんの仕事 小倉縞


赤の帯 染織家Aさんの帯

Aさんのご自宅からの風景。
隣家までも数百メートル、なだらかな山々に囲まれて、ほんとに千葉県?千葉県といえばディズニーか成田くらいしかしらない関西人にとって、外房は未知の世界でした。




糸はどうやら2色の赤色を染めているようだ。
撚りの変化、織りの変化によって奥行きのある帯に仕上がっている。
こうしたものを手にして、コーディネートすることによってきものの楽しみは何倍にも拡がっていく。

千葉県にお住いのAさんは女性らしい艶やかな色を引き出して下さる織の作り手だ。そのほっそりとした手からは、しかし、以外なくらいしっかりとした帯やきものが産み出される。師事された柳悦博氏の教えなのだろうか、“用いる”ことにきちんと軸足を置いて下さっていることは、私たちにとってこれは”当たり前”なのだけれど実に有り難い。

赤い色の魅力につかまっている。頭の中でイメージしたその赤は、ぼんやりとしている着姿なのだが、色彩のイメージは、ある。
端裂や色のサンプル帳でそれらしい色をあたるのだが、どうもしっくりこない。
そんな見本と全く同じ色にできるわけもなく、そうであってもまたつまらない。

Aさんには以前、「春がやって来て草木の命が爆発するようなそんなイメージの色で帯がつくれないか?」(多少ことばはちがっていたかもしれないが、、、)と無茶なお願いをしたことがあった。そうして、それはそれは素晴らしい色たちの帯をつくって頂いた経緯があった。追い求めている「赤」、今回も思いきって頼んでみることにした。
「いくつになっても、心ときめくようなそれでいて、身につけたい!と感じる大人の赤を。」


半年くらい経った頃だろうか、写真の品とあともう一つが届いた。
「こりゃ凄いな。」驚きとそして期待を大きく上回る喜びに思わず出た言葉だ。
色そのものの魅力に加えて、糸の撚りと組織の変化によって引き出される色が実に豊かなのである。ある赤の色が重なりあい変化して重厚なハーモニーを奏でている。

Aさんは、おそらくことばから膨らむ心象風景のようなものが途方もなく豊かでいらっしゃるのだろう。その一方で、視界に入るいろいろな情景を心にとめる感度がひと桁高いにちがいない。
しばしば語られるように、「豊かな自然の中に囲まれているから、」などという単純なものだけではないように思う。Aさんだからこそ、生み出せる色であり、それはAさんの持つ織の技術によってさらに昇華されるものなのだろう。

きっとAさんは静かなご自宅の居間で、困ったようなお顔をされるにちがいないが、私の頭には次にお願いしたい構想が浮かんできた。