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Vol.18 「表具師」の北村さん Vol.17 指宿紬 〜上原達也さんの仕事〜
Vol.16 飯田紬を訪ねて〜廣瀬染織工房〜 Vol.15 きものを大切に守る仕事 〜シミ抜き・洗張りの職人〜
Vol.14 『型染め』その2 Vol.13 ひとを育てる 〜電気屋さんと幸之助さん〜
Vol.12 受け継がれてゆく能登上布 Vol.11 畳のはなし
Vol.10 木版染めの技師と悉皆屋 Vol.9 土佐手縞 福永世紀子さんの織物
Vol.8 結城紬の糸の源 Vol.7 勝山さんの帯
Vol.6 上原美智子さんの織物 Vol.5 西陣のこと
Vol.4 「型染め」の魅力 Vol.3 現代の染織と魚座のこと
Vol.2 赤の帯 染織家Aさんの帯 Vol.1 築城則子さんの仕事 小倉縞


築城則子さんの仕事 小倉縞

工房と背景の山
築城さんの主宰する遊生染織工房は山と豊かな木々に囲まれた北九州市猪地にある。
 ひとつの色を準備するのに数年かかるものがある、という話だけを伺って、いったいそんな織物があるのだろうかと半信半疑で福岡県の小倉へやってきた。
 小倉の駅からタクシーに乗って20分もすると「ふるさと」の歌詞にあるような山里である猪倉町ヘ着いた。

 小倉織(こくらおり)という織物がかつて武士の袴地としておられていたのだそうだ。築城則子(ついき のりこ)さんは骨董店で出逢ったその端切れに魅せられて小倉織をよみがえらせ、美しい縞の織物を創っている。築城さんはずいぶん頭脳明晰な方だ。ぜんたいに織物をなさっているかたは論理的にものを捉える考えの持ち主が多いように思うが、築城さんはこちらの疑問にさっとスポットライトをあてるようにわかりやすく解いて下さる。
糸染めの諸段階
梅で染めた綿の糸。何年もかかって染めたひとつひとつの微妙な色の違いが命である。
 とにかく仕事のことを築城さんは「一日の仕事を欲張らない。」と表現された。
 一日の作業は早朝から染料に使う木々や葉を集める、3〜5時間くらいかけて煮だしした染液に糸を浸す。30分から50分のち糸は風を通して乾燥させる。その後媒染のため灰汁に浸し、またこれに風を当てて乾燥させる。
 ここまでしかやらない。これ以上は欲張らないのだそうだ。
 草木染めの特質とでもいうべきだろうか、この染め方では、染液に一回程度浸しても糸はほんの僅かの色しか染まらない。だから草木染めは手間がかかる。それを何回も何回も繰り返す事で、例えば、黄八丈の黄色や黒であったり、大島の茶泥が美しく映えるのである。しかも築城さんの小倉縞は綿の糸だ。綿は絹よりもはるかに染まり難い。

 でも築城さんの1日はここまで。
 1週間後また同じ作業をおこなう。ただし新しい糸と先週染めた糸を染めるのだ。この1週間の間に色が糸に馴染み美しい様になる。なるほど、この作業をくりかえすと3週間では4種類の色ができる。4週間では10種類。しかし、問題は染料の元になる草木だ。これはいつでも無尽蔵にあるわけではない。たとえば艶のある灰色を表現するキンモクセイはあの初秋の爽やかな香を放った後ではいい色はでない。梅はほのかに桃色がかったやさしいベージュを出してくれるが花が咲いたあとではいけない。各々の色に時季があるのだ。

 途方も無い作業だ。こんな風に自然の営みにまかせてしまえば、思い描く美しい色を得るには、なるほど数年が必要なのはまさに自然なことのようだ。
 でも疑問は残る。どうしてこのような手間のかかる方法で、なのか?
江戸時代の袴布
築城さんが初めて出会った小倉縞の袴地。ほんの小さな裂地だが吸い込まれるような色の奥行きがある。
 それは築城さんが表現したい色を出すにはこのやり方が最良だからだそうだ。
 築城さんの表現を借りれば「糸のお腹がすいていれば、いっぱい色を吸ってくれる、そうすれば糸は冴えた色に染まる。」「濃くてもくすんでいない。淡くても力強い色を織りたい。」築城さんはそんな縞をつくりたいのだと。
 だから当然、染料は混ぜては使わないし、糸が満腹のときは染めない。
 あらためて築城さんの創られた帯をながめてみる。まさしく色がいきいきと踊っているようだ。つまり築城さんしか創っていない色であり縞であり、布なのだ。

築城則子さん ご自身のHPは
http://www.tsuikinoriko.com